窓を開けると海がみえるこの喫茶店は
昼にきても夜にきてもすこし暗いのです
夜はオレンジ色のランプを灯すから、夜のほうがあかるいかもしれません
古びた蓄音機はおなじ旋律をくりかえし、くりかえし語りますが
ヨウコは気にしていないようです
リズムにあわせて氷がワルツを踊るけれども、それはおせじにも上手とはいえないので
人はぶつからないように気をつけながら席をさがします
ヨウコはくるくるまわる氷をつかまえて、アイスピックでとととんと削ったらグラスにかちんと入れてくれるのです
旋律ののこりがパチパチはじけるスコッチは、ゆっくり飲むにはげんきがよすぎるけれど
ざざん、ざざんと響くさざなみと
ヨウコのきれいなハミングは
ひんやりとしたこの飲みものによく似合っていたのでした
その曲はなんでしたっけと訊いたなら、ドビュッシーのアラベスクですよとヨウコはほほえみました
PR
トラックバック
トラックバックURL: